米国のニュース番組の中でも非常に信頼性、評価ともに高い、NewsHour(PBS)から、北朝鮮の情報分析を見てみます。
JUDY WOODRUFF: 司会者
今回の処刑から見て北朝鮮では何が起こっているのでしょうか。
お2人の専門家に伺います。31年間CIAで勤務し現在国務省の情報分析官のロバート・カーリン氏。カーリン氏は「二つのコリア:同時代史」の共同著者でもあります。もう一人はタフト大学・フレッチャースクール準教授のイ・サンユン氏です。
今日はようこそ。 カーリンさん。
今回は驚かれましたか。
ROBERT CARLIN:元CIA,現国務省情報分析官
意外でしたね。ただ、張成沢の失脚自体は驚きではありません、遅かれ早かれこうなると思っていましたから。意外だったのは・・・
JUDY WOODRUFF:
失脚をなぜ予想できたのですか?
ROBERT CARLIN:
彼は野心家で少し自信過剰でした。これまでも色々ありましたし、あまり北朝鮮の高い地位にはつけたくない人物です。ちょっと危険人物です。敵は多いですね。自分で敵を作るタイプです。シンパもいますが、多くの敵を抱えていました。非常に危うい立場でしたね。ですから時間の問題でした。これほど派手な事になるとは思いませんでしたが。
JUDY WOODRUFF:
イ教授、時間の問題だと思われていましたか?
SUNG-YOON LEE,:タフト大学・フレッチャースクール準教授
全くその通りです。独裁制では、実力ナンバー2の位置はあまりいいものではありません。形式的な第2の地位なら話は別です、北朝鮮にはそういう役割の人物がいます、外国特使を接待したりする人です。しかし張成沢は10年以上事実上、第2の実力者でした。だから標的になったのです。
独裁制下ではナンバー2の寿命は短く、危険なポジションです。
JUDY WOODRUFF:
カーリンさん、金正恩との関係はどうだったのですか?就任2年を間もなく迎えますが。2人の関係についてはどんな情報がありましたか?
ROBERT CARLIN:
何もありません(笑)
JUDY WOODRUFF:
何もなかったのですか?
ROBERT CARLIN:
本当です。冗談ではありません。
北朝鮮で個人間の関係を知ることはまず不可能です。写真を分析したり、細かな情報をつなぎ合わせていく他、手段はないのです。張成沢起訴という事実から遡って推理すれば、おそらくある期間、集中的に監視されていたことでしょう。にも拘わらず彼は傍若無人に振舞っていた。それをずーっと見てきて手を下すタイミングを計っていたのでしょう。
JUDY WOODRUFF:
イ教授、当局は長い罪名をつけましたね。
賭博に女性問題、金正恩に敬意を払わない・・・。これを真に受けるべきですか?どう見ればいいでしょう。
SUNG-YOON LEE:
信頼性のない罪名もあります。北朝鮮は親切にも張成沢の詳細な起訴理由で図らずも色々な情報を提供してくれました。経済が壊滅的状態であることも認めています。
「破滅的」という言葉を使っています。これも図らずも、当局が金正恩体制転覆の計画があったことを表明したことになります。いわゆる「人民の楽園、地上の楽園」では指導者は全能です。ほとんど神のようなものです。ですから張成沢のような人物が金ファミリーを覆すことなど夢にもあってはならないタブーのようなものです。そのタブーが今回破られました。
私が思うに、今回の件は長く苦しむ北朝鮮の人々にとっては、短期的には良い兆候ではありません。国内統制が強化されるからです。しかし長期的に見れば、30歳の金正恩はまだ50年生きられるかもしれませんが、幸福な人生が続くとは思えません。
JUDY WOODRUFF:
カーリンさん、北朝鮮の体制の不安定性だけでなく、粛清が続くという、国民にとって辛い日々が短期的には予想できることに同意されますか?
ROBERT CARLIN:
この知らせを聞いてまだ24時間しか経っていません。情報分析官としては、すくなくとも今後1週間は事態を見守るべきだと思います。まだ事態は収まっていないでしょう。外面的には、われわれにとって全く新たな展開ですから、恐れや先入観が先走って、金正恩が本当に何を考えているか理解できません。彼は処刑と並行して多くの人に恩赦を与えるかもしれません、慈愛のポーズもとらなければならないからです-人民はこの男(張成沢)に騙された、だが自分は偉大な領袖だから、罪も許せるのだ-と。かれ(金正恩)がどう動くか分かりません。私の助言は、「静観」です。
日々の情報を見てみましょう。
JUDY WOODRUFF:
ですが、イ教授は今後、短期的には金正恩の周りにもっと粛清が起こると見ておられるのですね?
SUNG-YOON LEE:
その通りです。
金正恩にも悪い知らせです。彼の衝動的で無謀な性格が今回の件で明らかになりました。この2年間、国内の締め付け、対外的には2回の長距離ミサイル実験に見られる軍事的冒険主義の加速を見てきました。粛清にはもちろん潜在的な敵を取り除く第一の目的がありますが、第2の目的として、恐怖を与えるというものがあります。今回、演出手法、最高官の一人を即時、処刑した行動からうかがえる事は金正恩は極めて自信家で、無鉄砲、それだけに自分で誤算する可能性も高いということです。かれが引き継いだ体制は、彼を、核のボタンを持った、最貧国を統治する世界有数の金持ちにしました。非常に異様で危険な取り合わせです。
JUDY WOODRUFF:
でも、カーリンさんは時間の経過が必要だと言われます。周りの世界は黙って判断を待つしかないのですか?
ROBERT CARLIN:
もちろん、各国は独自に是非を判断して政府としての行動を決定しなければなりません。
ですが今、ここで判断する必要なないでしょう。北朝鮮の情勢を心配し、何が起こるか分からない時に、北朝鮮批判の声をあげることは我々にとって得策ではありません。
待って、見てみましょう。軍の警戒レベルを上げる必要があれば、直ちにそれは可能です。北朝鮮も分かっているでしょう。このピリピリする時期をやり過ごす必要があります。だれも今、相手が何を考えているか分からないのです。
JUDY WOODRUFF:
分かりました。お2人ともありがとうございます。
訳Harikawa
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