純潔
高村 光太郎
純潔をまもってくれ、青年よ。
生まれてまだ二十年にもならないだろう青年は
まるで天からもらった水晶玉のようにきれいだ。
その純潔をまもってくれ、青年よ。
君の素直な生一本な精神を大事にしてくれ。
君の濁(にごり)に接せぬ體(からだ)を断じて汚すな。
面白そうな誘惑を軽蔑してくれ。
誘惑から君自身を守る事に興味をもってくれ。
自分の知らないような暗い事は
いさぎよく蹴飛ばしてくれ。
きれいでいる事のたのしみを知ってくれ。
天から貰った又と無い此の水晶玉を
むざむざ汚してはもったいない。
自分を高く考えてくれ、青年よ。
からだを汚すのは一切の不幸の初一歩だ。
青年期を必ずきれいに護り通して
のびやかに丈夫に晴ればれと大人になってくれ。
これが大人からの切なる願だ、青年よ。
(昭和15年9月20日作)
※ 一部、現代仮名遣いで表記しています。
コメント
高村光太郎 「道程」
僕の前に道はない
僕の後ろに道は出来る
ああ、自然よ
父よ
僕を一人立ちさせた広大な父よ
僕から目を離さないで守る事をせよ
常に父の気魄(きはく)を僕に充たせよ
この遠い道程のため
この遠い道程のため